ロジックモデルの構築とEBPM
ナッジ施策を自治体や民間企業で進める際には、従来型の政策手法とうまく組み合わせて、ロジックモデルを設計し、KPIを設定した上でEBPM(エビデンスに基づく政策立案)を実践することが効果的です。
こうしたプロセスを踏むことで、「ナッジだから導入する」という安易な発想に陥らず、ナッジの必要性や他の手法との優位性をしっかり確認しながら、より費用対効果の高い政策が期待できます。
また、統計改革推進会議の最終まとめでも「EBPMの推進には、政策の前提となる事実や課題を正確に把握し、政策の狙いや効果、コストとの関係を明示することが不可欠」と強調されています。
ナッジへの関心は高まりつつあるものの、実際の施策にどう取り入れるか、行動に移すにはまだ壁があるのが現状です。自治体でも「ナッジ」という言葉は知っていても、それが具体的な取り組みにつながらないケースが少なくありません。
こうした状況を踏まえると、ナッジ普及に向けては、短期と長期、ミクロとマクロ、演繹と帰納といった視点を組み合わせた体系的な工程管理が大切になってきます。
それによって、効果が確認されたナッジ手法を持続的に活用し、優れた事例の横展開や深掘りを計画的に進めることが可能になります。


【令和6年度パイロット実証事業】ロジカルフレームワーク策定・運用タスクフォース(仮称)
EBPMを進めるには、各組織が戦略やビジョンのもとで、インパクト・アウトカム・アウトプットを整理し、KPIも数値で明確化した上で、しっかり評価しながらPDCAを回していくことが重要です。
国や自治体だけでなく、関わる多様なステークホルダーが主体的にこのプロセスに加わることが期待されます。
その際には、現状の認識や課題、目指す将来像、達成スピード感などを、関係者全員でできる限り共有しながら進めることが肝心です。たとえば、目標とするKPIとして「自治体や企業のナッジ・ユニットの数を増やす」「ナッジ・プロジェクトの数や関係者数を増やす」などが考えられます。
また、「意欲的な組織や個人を積極的に後押しする」や「まだ関心が高くない層へのアウトリーチを強化し、全体の底上げを図る」といった方向性についても、共通認識を持ちながら議論を進めることが望まれます。
なお、現状ではナッジ・ユニットがなくてもナッジ活用を進めている自治体もありますが、そうした取り組みの情報が可視化されていないという指摘もありました。
一方で、KPIの設定や管理ばかりに力が入りすぎると、「設定しやすい目標」に流れてしまう恐れや、そもそもの目的を見失い、「ナッジすること」自体が目的化してしまうリスクもあります。
さらに、自治体の予算や人員体制が限られる中で、「ナッジさえやれば、簡単に成果が出る」といった誤解が生じることもあります。実際には、規制や金銭的インセンティブなど他の政策手法と比較した上で、最適な手段を選べる視点や能力も求められるという声もありました。
こうした中で、ナッジの普及状況や課題をしっかり把握するための実証研究も重要だという意見も出ています。
単なる数値データにとどまらず、自治体の規模や立地、地域の特性などの違いにも目を向け、イノベーター理論による分類や跛行性(地域差)分析などを行うことで、より精緻な目標設定や対策につなげるべき、という指摘です。
加えて、ナッジ・ユニットの更なる拡充に向けて、関係者が積極的に支援していくことが求められます。特に、小規模な自治体にもナッジが浸透していくよう、人口カバー率なども意識した取り組みが必要になるでしょう。
各地域や組織の特性を見極めつつ、いわゆる「キャズム」をどう乗り越えていくか、計画・設計・実行・評価といったPDCAを着実に回していくことが期待されます。そして、ナッジとあえて言わなくても、「業務の見直し」がスラッジ(不要な負担)解消につながっている場面もあることから、こうした視点での分析も視野に入れるべき、との意見もありました。
こうした議論を踏まえ、令和6年度は試行期間として、有志メンバーによる「ロジカルフレームワーク策定・運用タスクフォース(仮称)」を立ち上げ、プロボノ(無償)でのパイロット事業に取り組み、令和7年3月を目途に結果をまとめる方向で調整が進んでいます。
あわせて、こうした活動や調査を支えるため、公的・民間・寄付など多様な財源の確保や無償での貢献の可能性も含め、ナッジをはじめとした行動インサイトの活用による普及活動にも、積極的にチャレンジしていきます。