今回紹介するのは、行動インサイトの活用で世界的に影響力を持つ「Behavioural Insights Team(BIT)」についてです。BITは、政府内に設立された世界初の行動科学組織であり、その画期的なアプローチにより、政策の改善や公共サービスの向上に大きな役割を果たしてきました。
英国Behavioural Insights Team(BIT)のミッションとビジョン
BITのミッションは、行動科学の原則を用いて公共政策をより効果的かつ効率的に改善することです。彼らのビジョンは、人々がより良い選択をできるよう支援し、結果的に社会全体の生活の質を向上させることにあります。行動科学の知見を政策に取り入れることで、政府や組織が直面する様々な社会課題をより効果的に解決しています。
組織構成
BITは、多様な専門家で構成されています。心理学者、経済学者、政策専門家、研究者などがチームのメンバーとして集まり、それぞれの専門分野の知識を生かして政策設計を行っています。これらの専門家たちは、行動科学の理論を政策に応用し、政府や他の組織と協力して、現実的な問題解決に取り組んでいます。
BITの活動内容
BITの特徴は、具体的な政策課題に行動科学の手法を適用し、実証的なアプローチを取ることです。特に、ランダム化比較試験(RCT)を活用した政策設計と評価に力を入れており、これにより政策の効果を定量的に評価しています。彼らの取り組みは、税金の徴収から健康促進、教育や雇用支援など、多岐にわたります。
- 税金の徴収: 納税者に送るリマインダーの文言を変更し、税金の支払い率を向上させました。特に、他の納税者も期限内に支払っていることを示す「社会規範」に基づくメッセージを活用することで、効果を上げました。
- 健康促進: 英国での脳卒中予防キャンペーンでは、脳卒中の兆候を認識し、迅速に行動を促すために、簡潔で覚えやすいメッセージを使用しました。このような行動科学に基づいたアプローチにより、健康促進が効果的に進められました。
ナッジを普及するためのナレッジ共有
BITは、行動科学の知見を他の政府や組織とも広く共有し、ナッジの普及を促進しています。これを実現するために、報告書やワークショップ、研修などを通じて、行動科学の理論と実践に関する情報を提供しています。また、公共サービスの改善に関する研究や事例も積極的に世界中の政策立案者と共有しています。
具体的なナレッジ共有の事例
- 研究報告と公開資料: BITは、自らの研究成果をウェブサイトや出版物を通じて公開しています。これにより、行動科学に基づく施策の成功事例や学びが、広く社会に共有されています。
- ブログとポッドキャスト: 定期的にブログやポッドキャストを通じて、行動科学に関する最新のトレンドや洞察を発信しています。これにより、専門家だけでなく、一般の人々にも行動科学の最新情報が提供されています。
- パートナーシップと協力: 他の政府機関や研究機関、民間企業と協力し、行動科学の知識を共有するためのパートナーシップを構築しています。これにより、さまざまなセクターや地域で行動科学が応用されています。
- 公開セミナーとトレーニング: 行動科学の理論や応用に関するセミナーやトレーニングを定期的に開催し、幅広い参加者がナッジを学ぶ機会を提供しています。
- 国際会議への参加: 行動科学に関連する国際会議やシンポジウムに参加し、自らの知見や経験を共有しています。これにより、行動科学の国際的なコミュニティの発展にも貢献しています。
BITの活動は、単に英国にとどまらず、世界中の政策立案者に行動科学の知見を提供し続けています。彼らのアプローチと成果は、他の国や地域でも多くの影響を与えており、日本のナッジ・ユニット「BEST」にも大きな影響を与えています。